ごあいさつ


自殺学研究100年と本会創立者・故増田陸郎氏生誕100年

 日本自殺予防学会が、東京都目黒保健所所長であった増田陸郎氏が1970年に創設したことは幾度か触れてきた。その後増田氏が書いた回想録や論文などを調べて行くうちに、増田氏が實にアッピール性のある文書を各方面に送付していたことが分かってきた。いわば投書魔あるいは投稿魔というべきか、一般新聞・雑誌はもとより医学関係の学会誌などに絶えず投書と寄稿を繰り返していたことが明らかで、それだけを編集して数百ページに及ぶ記録集まで出版している。その編集や内容は、失礼ながら愚直に近いが、氏の情熱は伝わってくる。さらに当時発足した学会の前身であった「自殺予防行政懇話会」のメンバーには、すでに故人となったが加藤正明(初代理事長)、大原健士郎あるいは稲村博氏らの名前が記録されている。みな増田氏の熱心な呼びかけに応じた研究者たちであった。
 また1971年の12月に、増田氏は当時の東京と知事美濃部亮吉氏に、次のような要望書が上記懇話会と同じ年に発足した「東京いのちの電話」との連名で提出されている。

「要 望 書
知事が就任以来「都民の生命と健康を守る」ことを一つの柱にしておられることに深甚なる敬意を払います。私たちはかねてから、このフィロソフィーに立って、生命破壊を前提とした自殺行為が、日本においては社会共同の責任として、行政の立場から取り上げられていないことから、これを行政のルートに乗せる方策を立案する目的で発足したものであります」(後略)
こうした前文で始まる要望書はその内容として3点を列記している。
  1. 都民室に緊急相談室を設けること
  2. 都立病院に精神神経科を設置すること
  3. いのちの電話に対する財政的援助

 東京都や国が本格的に自殺対策を立ち上げたのは、それから30年後の2001年であったことを考えると、当時としては画期的な要望であった。今日、学会自体はまだ弱体であるが、わが国の自殺対策に影響を及ぼす有力な研究者や臨床家が名を連ねていることを誇りとしたい。
 ところで、創立者増田陸郎氏は1913年の生まれであるが、偶然のことに、同じ年に当時東京帝国大学医学部精神科教授呉秀三が「精神病者ノ自殺症ニ就キテ」と称する論文を『東京医学会雑誌』に寄稿している。これはわが国における本格的な自殺研究の嚆矢であったと言われている。つまり2013年は日本における自殺学研究100年、増田陸郎氏生誕100年にあたる。

 10数年来自殺者数3万人という沈痛な事態が続いているが、ここ数年来本学会誌『自殺予防と危機介入』には、本格的な自殺研究が続々と投稿されている。こうした研究がやがて豊かな成果をもたらすことを祈念しつつ、「自殺研究100年」の年に向かって、新たな展望を開きたいものである。

日本自殺予防学会理事長 斎藤友紀雄

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